旅は道連れ

景色に飽きて部屋に戻ろうと思った私に話しかけた女性、ここでは『はなさん』とさせてもらう。もちろん仮の名だ。

はなさんは私の5メートルほど離れた場所で横浜の街を眺めていたが、少し寒くなったので部屋に戻り、荷ほどきをしてからまたデッキに出てきたそうだ。
「そしたら出港時と同じ場所にあなたが佇んでいたので、思わず声をかけたのよ」
年寄りには潮風は障るからと、はなさんの提案でカフェへ移動した。

カフェで私はコーヒーを、はなさんはミルクティーを飲みながら、お互い自己紹介をした。はなさんは幼い頃から神戸に住んでいて、息子はニューヨーク、娘は横浜に住んでいるそうだ。今回の旅はニューヨークから息子が一時帰国するのにあわせて、夫婦で東京に数泊し、娘の見送りでクルーズ船で神戸の家へ戻る予定だった。しかし、はなさんも直前になって、ご主人の都合が悪くなり、急遽一人で乗船する事になったと話してくれた。
「自営業なんですけどね。急遽仕事の都合で昨日の朝、新幹線で帰ったんですよ。私も一緒に帰ろうとしたんですけど、主人と子供はせっかくだから船旅を楽しんで!ってね・・」

とはいえ、1人で楽しむといっても旅路は長い。そう思いはじめた矢先、同じような雰囲気を出していた私を見つけて、思い切って声をかけてみたのだという。

私も出身地、今回の旅の経緯、会社の事など話した。高校まで野球一筋でやってきたと言うと、はなさんは「高校野球が好きなのよ!こんな所で球児に会えるとは!」「球児と言っても元ですけどね」と、日ごろの練習メニューや先輩後輩関係、はたまたオフの過ごし方など、マニアックなところまで細かく伝えた。こんな話ばかりしてよいのかと悩んだが、はなさんが楽しそうに聴いてくれたのでほっとした。対して、私ははなさんの住まいがある神戸について、神戸港、ポートアイランド、元町中華街など、私が知りうる限りのスポットを挙げると、キメ細かにあれこれ教えてくれた。